この週末は忙しかった。追加の薪が届いたり、写真撮影があったり、原稿を書いたり。それ自体は大したことはないのだが、それに付属する事柄がいろいろある。おかげで薪は今シーズン十分焚けるほど揃い、写真撮影のための大掃除は久しぶりに広い空間を生み出し、家づくりをまとめた大作ができた。この家づくり原稿はとてもいいできなので、ここでも紹介してみようと思う。
さて、運命の見積もりが出たところで連絡があった。「見積もりが出たので打合せがしたい」それだけである。見積もりの金額等についてはいっさいコメントなし。きっとかなりオーバーしているのだと予想はついた。
打合せに赴くととても暗い表情の所長。実はと出された見積もりは予想を超えるオーバーだった。オーバーの金額は土地代をも上回る。途方にくれる一同。とりあえず話すこともなく、その日の打合せは終了。
ここで我々の家の予算の出し方について説明しよう。まず、二人の総資産を出す。そのうち、いくらを残すかを決める。残す金額を総資産から差し引いた額が自己資金である。そして借り入れ。返済期間を決める。長年、返済に追われたくないので最大15年。次に月々の返済金額を決める。ボーナス返済を考えず、それまで住んでいたマンションの家賃を超えない金額とした。その二つのトータルが土地代を含めた家づくりの資金である。この金額は、現場が始まればあれやこれや付け足したいものが出てくると思われるので、設計の段階では死守すると決めていた。
家に帰っても暗い。二人でどうすればこの金額が減るのか話し合う。そんなところへ住環境研究所から減額案というタイトルのメールが届いた。そこには「これを止めれば、いくら減額できる」という一覧表が添付されていた。それを見てますます落ち込む二人。こんな減額をするなら建てない方がましだと思われた。次の打合せのまでに二人でどうするかを話し合う。出した結論は「クオリティを落とさず、家を小さくする」。
結論を持って打合せに臨む。とりあえず、住環境研究所の意見も聞いてみるが、やはり納得できるものではない。「家を小さくしたら減額できますか?」と切り出した。早速図面を取り出し、いつものように鉛筆でさらさらとラフを描きだす所長。「これくらい小さくすれば」と差し出したのが東西を90cmずつ小さくしたもの。「これでいきましょう」。
家は小さければ小さいほど設計が難しい。建築家の腕が問われる。今回は元から小さいものを更に小さくする。その作業は思いのほかたいへんだった。
一番とまどったのは1Fのリビング。どうしても食料品などを置く雑庫への入り口が作れない。レイアウトをどう変えても解決できない。いらだつ我々。「ここでこうしていても時間が経つだけなので、一度よく考えていいアイディアが出たら連絡をください!」という私。「ここで一緒に考えましょう」という所長。お互い語気が強くなり、険悪ムード。空気がどんどん重くなる。家人はどうしたものかと無言のまま。我々の家づくり船は沈没寸前だった。
そのとき「トイレの奥に雑庫の入り口を作ったらどうでしょうか」。女性スタッフが突然言った。狐につままれたような三人に淡々と説明する彼女。
住環境研究所では一つの物件に一人の女性スタッフがつく。一級建築士の資格を持つ彼女たちは建物が好きでとても研究熱心。また女性ということもあり、細かい気遣い、アドバイスをしてくれる。この沈没しかけた船を救ってくれたのは我々の担当だったこの女性スタッフである。
彼女の説明に三人は拍手喝采。「すごいすごい」を連発する我々に「安藤さんの美術館にそういうのがあったのでおもしろいなと思って」と謙虚に笑う。彼女の建築好き、研究熱心さが生み出したアイディアだった。
重苦しい空気は吹き飛び、反動でいつも以上の明るい活気にあふれた空気になった。その雰囲気の乗って「たれ壁の上も人があがれるといいですよね」と軽く言った所長。「やあ、私もスタッフに負けられない、何かアイディア出さなきゃと思いまして」と満面の笑み。後にこの発言が大工さんをとても困らせることになる。
レイアウトも固まり、再度見積もりを取ることとなった。出て来た見積もりは業者さんの配慮もあり、許容範囲となる。そしていよいよ現場がスタート。その模様は既にお伝えしているとおり。
家を建てようと決めてから完成までちょうど2年。山あり、谷あり。悩んだことも多かった。だが挫折しそうなとき、一緒に考え、とことん話し合ってくれたのが、住環境研究所の所長、女性スタッフであった。この人たちのねばり強いサポートがなければ、この家の完成はなく、今これほど満足のできる生活を送ることはできなかったと思っている。建築家、設計事務所を選ぶとき、アドバイスがあるとしたら、その建築家がどんな建物を建てているのかを見るのも大事だが、その人間性、自分との相性を見ることも重要である。自分の思ったことを言えるのか、それを受けとめてくれるのか、話し合えるのか。それができなければ満足した家は建てられないのではないかと思う。我々の家づくりが成功したのは、こういった建築家との出会いがあったからだと確信している。

コメント
ご無沙汰しております。
自分達の時の事が思い起こされ、失礼ながら思わず笑ってしまいました。
#「見積もりが出たので打合せがしたい」とか(笑)
振り返ってみると、そこが本当の二人三脚のスタート地点だったんだと感じてます。
…
…と今ならさらりと言えますが、当時はそれはそれは…(苦笑)
投稿者: Moirch | 2006年09月28日 00:54
Morichさん、お久しぶりです。
今は家づくりのエピソードとして笑って話せますが、
当時は本当に危機でしたね。家づくりはこれで終わりかと思いました。
家が建ってよかったです。
投稿者: maki | 2006年09月28日 11:31
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